能登屋備忘録:台湾生活日記

能登屋の日常を淡々と描く作品です。

(台湾ニュース)「台湾初の女性駐米代表就任へ」

 上原亜衣ネタがプチバズりましたが今日は真面目なお話をします*1

 

 

日本における「駐米大使」

 外務大臣、外務次官等外交部門の要職の中でも、駐米大使は各国のなかでひときわ重視される存在であろう。なんといっても世界一の大国に派遣される国の代表であるから、それ相応の力量と風格が要求されるだろう。

 日本の近代では、寺島宗則陸奥宗光、星亨、小村寿太郎、石井菊次郎、幣原喜重郎、野村吉三郎ら錚々たる顔ぶれが駐米大使に就任している。近年の日本において、駐米大使は基本的に外務次官退任後のポストとして扱われており、一種の「上がり」を象徴している。逆に言えば、あまり政治色のない人選が行われているといえる。駐中大使はやはりかつては外務省の「チャイナスクール」と呼ばれる中国語研修者が務めることが多く、これもやはり外務省の生え抜きが就任することが多い。こうした点から見て、日本の、特に戦後の大使、公使職は外務省から選ばれることが多く、一部を除けば政治的な人選が行われることは少ないと言える。

 

台湾初の女性駐米代表就任へ

 

 台湾では、やはり外交部生え抜きの人選と、政治色を感じさせる人選が渾然となっている印象を受ける(とりわけ駐日代表は政治色が強く感じられる。ページ下面参照)。

 2020年5月20日から、蔡英文政権の二期目が始まる。それに合わせて、主要閣僚や外交関係の人事が発表されつつ有るが、このほど「蕭美琴」が駐米代表(駐アメリ台北経済文化代表処代表)に就任することが決まった*2。台湾(中華民国)初の、女性駐米代表になる。

 

蕭美琴紹介

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蕭美琴氏(立法院HPより)

 1971年生まれ。民進党籍の元立法委員(2002-2008、2012-2020)。母は米国籍、日本の神戸に生まれる。高校以後はアメリカに留学、コロンビア大学修士政治学*3

 蕭美琴は、国際関係を得意とし、民進党内や立法委員として頭角を現してきた。アメリカやカナダに人脈が有り、党内の国際化において重要な役割を果たし、内外での評価も高い。彼女は行政部門での経験はなく、閣僚就任経験は殆どないが、蔡英文から常に信任を得てきた。1月の選挙では落選となったが、蔡英文政権内で国家安全会議(李大維秘書長)で外交等の職務に就く。また2月の、副総統就任予定者である頼清徳の訪米にも随行している。

 

蔡英文総統による政治色の強い人事か

 外交官や行政官としての経歴は殆どない蕭美琴は、総統の政策的、政治的要請による人事に見える。蔡英文政権内では、いずれも駐米代表就任経験のある李大維(国家安全会議秘書長)、吳釗燮(現外交部長、留任が決定)、高碩泰が外交的に、とりわけ対米外交には強い影響力を有しているとされており、伝統的な対米外交路線からどこまで独自色が打ち出せるかは蕭美琴のひとつの注目点と成る。また、台湾帰任後の閣僚登用の試金石と見るむきもある。

 また、総統による政治色の強い人事は、蔡英文政権に限られるわけではない。馬英九政権において駐米代表をつとめた金溥聰は、馬英九台北市長のもとで副市長をつとめ、また馬英九の選対委員長を務めるなど、馬英九の参謀とも呼ばれた人物である。金は馬英九アメリカの最新情報を逐一知らせるなど、アメリカとの外交ルートにおいて活躍したとされる。

 対米、国際関係を専門とする蕭美琴は、こうした点で、台湾の対米外交にいかなる変革をもたらせるのか、また米台関係が強化されている中で、あるいは今年のアメリカ大統領選挙を睨んで、いかなる路線を打ち出せるのか、課題山積の難しい状況の中での船出となる。

 蕭美琴の駐米代表就任は、アフターコロナ以降、台湾がいかなる外交を打ち出してくるか、まずアメリカがその舞台の中心になるという蔡英文政権の意向を示したものに成るだろう。 

 

駐米代表(駐美國臺北經濟文化代表處代表)


丁懋時(1988-1994):外交官
魯肇忠(1994-1996):官僚(経済部)、外交官
胡志強(1996-1997):官僚(行政院新聞局局長、1991-96)、政治家
陳錫蕃(1997-2000):学識経験者、外交官
程建人(2000-2004):政治家、外交部長(1999-2000)
李大維(2004-2007):外交官(駐EU代表・駐ベルギー代表、2001-04)
吳釗燮(2007-2008):学識経験者、政治家(総統府副秘書長、2002-04)、初の国民党籍以外の駐米代表
袁健生(2008-2012):軍人(海軍中校副武官)、外交官(駐カナダ代表、駐パナマ大使)
金溥聰(2012-2014):学識経験者、政治家(台北市副市長、国民党秘書長)
沈呂巡(2014-2016):外交官、駐英代表(2011-14)

高碩泰(2016-2020):外交官、駐イタリア代表(2013-16)

 

駐日代表(駐日本臺北經濟文化代表處代表)

蔣孝武(1990-1991):企業家、蒋経国子息
許水德(1991-1993):政治家、元高雄市台北市長、内政部長(1988-91)
林金莖(1993-1996):外交官、早大修士・亜大博士
莊銘耀(1996-2000):もと軍人(国防部副部長、1991-92、海軍総司令官、1992-94)
羅福全(2000-2004):台湾独立運動
許世楷(2004-2008):台湾独立運動家、東大博士
馮寄台(2008-2012):もと外交官、国民党関係の事業を経て大使、駐日代表
沈斯淳(2012-2016):外交官
謝長廷(2016-):政治家、元民進党主席、元行政院長