能登屋備忘録:台湾生活日記

能登屋の日常を淡々と描く作品です。

(台湾政治外交)「キリバス、中華人民共和国と国交樹立か」→「台湾、キリバスとの断交を発表」

 

notoya.hatenablog.com

 

 先日以来台湾がソロモン諸島と断交したことをお伝えしてきました。いきなりですが、また外交関係を維持している国が減るかもしれません。次の国はやはり南太平洋のキリバスです。

f:id:noto92:20190920122101p:plain

キリバスの国旗(ウィキメディア・コモンズより)

www.cna.com.tw

 

→台湾時間20日13時30分更新

 中華民国(台湾)はキリバスとの断交を発表しました。台湾と外交関係を持つ国は15カ国に、太平洋地域では4カ国となりました。ツバルにも断交の危険性が有るようです。まさにドミノ現象……*1

 

 

①:中国、台湾選挙への介入を企図

  『Radio New Zealand』が伝えるところによりますと、キリバス政府が台湾(中華民国)と断交し、中華人民共和国との外交関係を樹立することを計画しているとのことです*2

 『自由時報』や『中国時報』などの台湾メディアも、キリバスが台湾との断交を検討していると報じていますが、そのなかで中華人民共和国政府(習近平)が「台湾介选计画」(台灣介選計畫)を発動し、台湾と国交を持つ諸国へ断交を迫っているというのです*3。この計画は文字通り、「選挙への介入」を意図するものです。繰り返しお伝えしていますが、台湾では2020年早々に大統領選挙と議会選挙があります。現状では、現職の蔡英文総統がやや優位という状況ですが、野党国民党の韓國瑜候補も盤石の支持基盤を持っており苦戦が予想されます。更に、今週元民進党呂秀蓮氏がより独立派傾向の強い「喜楽島連盟」から出馬することを表明し、いわゆる民進党支持基盤の分裂が予想され、かなり厳しい状況に置かれそうです*4。そうしたなかで、反民進党・反台湾独立を鮮明にする習近平政権としては、蔡英文政権の続投は絶対に避けたい状況で、台湾総統選挙への介入は今後より力を増しそうです。

 

②:「予算無制限」!選挙介入政策の手法とは

 報道によれば、この「台湾介选计画」(台灣介選計畫)は予算上限がないという激しいもので、具体的には「年底前停止所有赴台觀光團,並啟動包括壓縮台海中線的海空軍事行動,「務致島內社會對蔡英文當局之疑慮與不信任達至最高」、「壓制蔡英文民進黨於明年島內大選支持於最低」」(年末までにあらゆる台湾への団体旅行客を停止し、台湾海峡に引かれる境界を圧縮する海軍・空軍の軍事行動を発動し、台湾社会の蔡英文当局への疑問や不信を最高に高め、蔡英文民進党が来年の総選挙で惨敗せしむる)というもの*5

 

③:中国国内への習近平批判への対抗措置か

 台湾『中央社』の報道によると、こうした台湾への圧力は、もちろん台湾総選挙への対策となるわけですが、それ以外にも習近平政権が現在直面しているジレンマに対する国内批判を交わす目的があるとのことです*6

 これによると、中国は10月1日に建国70年の国慶節を迎え、同月には第四回中全会の開催が決まっています。この中全会では、特に香港問題や米中貿易戦争において習近平を批判する声が高まると予想されており*7、台湾への干渉はこうした批判を削ぐ目的、あるいは目線を台湾へと移す目的が有ると指摘しています。

 

④:習近平の台湾政策には特に清新さはない

 習近平主席は今年の1月、「台湾同胞に告げる書」(告台湾同胞书)発表40周年を記念した講話を発表しました*8。この詳しい内容については、東京外国語大学の小笠原欣幸先生の分析を御覧いただきたいと思いますが*9、特に目新しさを感じさせることは少ないものの、統一への強い意識を繰り返し示し、これまで国民党が主張してきた「九二共識」(92コンセンサス、ROC・PRC双方が「ひとつの中国」を認めるものの、その内容は異なるというもの)を事実上否定したものとなっています。

 習近平政権としては、明確に統一へ向けて一段踏み込んだ政策を取りたいところですが、今のところは現在の蔡英文政権への揺さぶりと、続投を避けさせることで、比較的中国と友好的な国民党政権の誕生を待望するという立場のようです。

 

⑤:結論

 総合すると、①:国慶節を前に中国が台湾への圧力を深めているという見方は正しく、またその背後に②:来年の台湾総選挙に向けた揺さぶりが有ることも間違いはないが、一方で中国共産党内部の問題として、③:習近平主席の中全会対策という意味合いがあるのではないか、というのが昨今の台湾友好国への外交的圧力というわけです。

 ソロモン諸島の断交において、今後は太平洋諸国がドミノ倒しのように台湾との断交、中国との国交樹立に踏み切るのではないかと予想されていますが、今後さらなる拡大があるのか、注視していく必要があるでしょう。また、アメリカがこうした課題についてどのような反応を見せるのかも見る必要があると思われます。

 キリバスは最悪の場合、今週中にも中華人民共和国との外交関係樹立を発表する模様です*10。→2019年9月20日中華民国外交部は断交を発表しました。

 

⑥:キリバス基礎情報

 キリバスは南太平洋に所在する、人口約12万人の小さな島国です。1979年にリン鉱石が枯渇して以来は目立った産業がなく、いわゆる後発発展途上国LDC)です。国内には、漁業とコプラの栽培を主体としていますが、オーストラリアを始めとする諸国の援助に依存する状況です*11

 2003年まで中華人民共和国と国交を樹立していましたが、同年に中華民国(台湾)との国交も樹立、2つの中国を外交的に認めましたが、直後に中華人民共和国が断交を宣言しました。そうした意味では、台キ関係はごく近年の出来事なのですね。