能登屋備忘録:台湾生活日記

能登屋の日常を淡々と描く作品です。

(香港ニュース)「林鄭月娥香港行政長官、『逃亡犯条例改正』撤回を発表」

 

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実は5月へ香港へ行きました


 6月頃から香港で大規模な話題となっている香港における「逃亡犯条例改正」(反送中)とそれに反対するデモですが、8月以降さらなる大規模化、警察との衝突、人民解放軍の投入を伺わせる中国政府の態度など目まぐるしく状況が展開されました。これについてはまた台湾の立場から検討する文章を発表したいと思っています。

 と悠長に思っていたのですが、今日(2019年9月4日)、香港のトップである林鄭月娥行政長官が「逃亡犯条例改正」を正式に撤回すると表明しました*1。そこで、この件についてごく簡単に私見を述べたいと思います。

 

<要約>

・短期的処置として、「逃亡犯条例改正撤回」は有効かもしれないが、長期的には意味を成さないだろう

 ①:林鄭月娥長官のビデオメッセージ

 林鄭月娥長官は今日夕方、市民に対してビデオメッセージを発表しました(下は広東語版)。

 

www.youtube.com

 

 このビデオメッセージのなかで、林鄭月娥行政長官は、抗議活動の中で提起された、いわゆる「五大訴求」に応えています。この五大訴求とは、①:条例案の撤回、②:警察暴力の鎮圧追及、③:選挙の実行、④:6月12日デモの「暴動」認定撤回、⑤:林鄭月娥の辞任を指します*2。このうち、林鄭月娥長官がビデオで明確に認めたのは、第1項目の逃亡犯条例改正案の正式な撤回です。このほか、長官がビデオで繰り返したのは、法に基づいて粛々と対応を行うという点で、これは主に②と④に関わります。長官はまた、外部委員やIPCCと協力し、警察の暴力行為に対する調査を行うことを認めました(ただし第三者委員会ではない)。ほかに、③については、香港の「基本法」の最終目標であると論じたほかは具体的な対応策に踏み込まず、⑤自身の辞任については明言せず、今後は自身が社会に分け入り、直接皆の意見を聞くと表明しました。

 

②:抗議行動は沈静化するか

 さて、ではこうした林鄭月娥長官の意思表明によって、今後の抗議行動は沈静化し、香港は平静を取り戻すのでしょうか。

 状況は思わしくはないと思います。

 

 

 現在の香港での抗議運動の指導者の一人とされる黄之鋒は今日夕方、この問題に関する見解を発表しました(彼は現在台湾に滞在中です)。彼は基本的に長官の表明について評価はせず、「あまりにも小さすぎ、そして遅すぎた」と批判し、以降のツイートでも「五大訴求」への応答こそ必要であるということを強調しています。

 彼はFB上でも、「五大訴求は何一つ欠けることがあってはならない」と表明しています*3。彼と並んで、日本語での情報発信を担当した周庭も同様の見解を示しています。

 

 

③:国慶節に向けた妥協点か

 8月30日、この黄之鋒や周庭ら著名な活動家が逮捕される事件が起きました。同日中に、彼らは解放されましたが、いまだ逮捕されたままの人々もいます*4。報道によれば、10月1日の中華人民共和国国慶節に向けて、対外的にも情勢を安定化させる必要があるため、こうした打開案へと至ったとの観測があります。また、前々日(9月2日)には、長官が「可能であればやめたい」と漏らした音声が流出し*5、対応に追われました。こうしたタイミングの中で、北京としてはこの辺が許容できるレベルなのかなあというところで、ここからさらなる譲歩は引き出しにくいでしょう。

 しかしながら、一度起きてしまった子は容易には眠らないでしょう。私がビデオを見た印象は、行政長官公署としては積極的にこの一連の抗議を肯定しない、つまり「法に則って」処理するということは、政府の見方を踏襲してこの問題を処理するという意思が続くということでした。香港の法的体系は、当然ですが中国のコントロールを受けますし、民主主義諸国のように完全なものではありません。緊急事態条項があり得ます*6。そこに対する懸念や不安はおそらく現状では解消されることはないでしょう。

 

④:香港の抱える社会問題、香港の優位性とは

 ビデオの中で長官自らこの回答が抗議者たちを満足させるものではないことを認めています。そして長官はまた、香港の多くの人々(若者を中心に)が、不動産価格の投機的高騰、貧富の格差などの不満をいだいていることを認め、それらの解消に向けた努力をすることを表明しました。「香港」の価値を大幅に見つめ直していく作業が必要です。深セン、広州など周辺地域の経済的な発達が、もはや香港を追い抜いていく中で、香港の経済的な価値は単に経済的な価値だけでは他地域に遅れを取っているでしょう。今後より一層香港の中国化が進めば、いよいよもって本当に香港は中国の単なるひとつの都市に後退していきます。そうした時、いま抗議の声を上げている市民はいかにすれば良いのでしょうか。

 イギリスが、台湾がなんらかの可能性を考えつつあります。それに対してさらに中華人民共和国政府はどのように対応するでしょうか。

 今後は一層香港の価値と自由を再考する、深度の高い運動が続くように思われてなりません。