能登屋備忘録:台湾生活日記

能登屋の日常を淡々と描く作品です。

(台湾政治外交)「アメリカ、台湾へのF-16V売却」1

真面目な話もしておけなければただの台湾ブロガーなので……。さてどこまで需要があるのか、どこまで私がこの問題をうまく語れるかは謎なのですが。書いてみたら長くなったので2回に分けて説明します。

<要点>

・トランプ就任後、アメリカの台湾政策は転換を見せた(代表例、2つの法律)

・米中1982コミュニケによる武器売却凍結と台湾への「6つの保証」

・1982コミュニケを逸脱する1992年F-16売却

・「近代化」にとどまったオバマ政権期(中台関係接近)

 

①:トランプ後の米国台湾政策の転換

 アメリカの大統領にトランプが就任して以来、アメリカの中国政策が変化を見せていることはよくご存知と思われます。その結果が、米中貿易戦争であるわけですが、この米中関係は当然東アジアや世界のその他の国際関係、外交関係に影響を及ぼしています。トランプ大統領は、就任前に史上初めて台湾(中華民国)総統からの電話(ホットライン)を受け入れ、この40年間に及ぶ謎な米中台の関係について説明を求めたとされています*1(記者は「out of ignorance」、不案内にと書いていますが)。以降、米台関係は緊密度を増し、米中、あるいは中台関係に影響を及ぼしつつあります。 

②:2つの法律

 その象徴とみなされているのが、2018年にアメリカ議会で可決された2つの法律です。ひとつは3月に可決された「台湾旅行法」で、同法ではアメリカ政府官員が台湾を訪問できることを認め、米台官員の積極的な相互交流を推進を認めました*2。もう一つは、「アジア再保証イニシアチブ法案(Asia Reassurance Initiative Act of 2018, ARIA)」です*3。同法により、アメリカはインド太平洋地域におけるプレゼンスを高め、自国と同盟関係にある諸国へ武器供与を含めた戦略的互恵関係を向上させることとなりました。 

 中国はこれに対して反発をしています*4

③:武器供与をめぐる米中合意、台湾

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F-84G

 

 1979年、米中は国交を樹立、そしてレーガン大統領以降は明確に、アメリカは基本的に中華人民共和国の「一つの中国」論を受け入れ、台湾その他の国家や地域については基本的には中国に属するものというスタンスを採用してきました。一方で、1979年に成立したアメリカの「台湾関係法」では、米台関係の継続とアメリカの台湾への武器供与を認めています*5。本音と建前、あるいは面従腹背というか、アメリカも台湾も中国もそれぞれお互いの顔色を伺いながら、それぞれの利益にかなう行動を取ってきました。1990年代以前の中国は、こうしたアメリカの対台湾、対中政策についてあまり積極的な表明をしてこなかったようにも思えます。しかしながら、冷戦崩壊と以後の中国のプレゼンス増大、米中関係の深化というなかで、米中・米台関係は常に変化を続けてきました。

 Wikipediaには、1979年から現在までアメリカから台湾へ売却された武器の一覧がまとめられています*6。ここ数年における武器売却は、以前と比較しても増大しつつあることが見て取れるでしょう。そのなかで、戦闘機の売却は1992年以降ずっと途絶えていることがわかります。アメリカと中国は1982年に「八一七公報」(The third and final communiqué (August 17, 1982))を結び、事実上アメリカの対台武器供与の削減を打ち出します*7。一方でアメリカは中華民国政府に対して「六項保證」("Six Assurances" )を発し、「U.S. would not set a date for termination of arms sales to Taiwan」(アメリカは台湾に対する武器供与について、その終了期日を設定しない)と非公式に規定します*8。つまり、アメリカは、中国に対して台湾への武器供与の現状を維持するとともに、将来的には武器供与の削減を認めましたが、非公式には中華民国政府(台湾)に対してその終了期日を設定しないことを説明したのです。

 しかしながら、1982年以降しばらくはアメリカが台湾に武器供与を行うのは慎重になりました。同時期に、台湾はF-5の代替を目的に、アメリカにF-16の売却を要請していましたが、事実上はねつけられ、F-CK-1(経国、1983年開発開始)の開発やフランス製のミラージュ2000の購入(1989年)など、戦闘機の確保に奔走することになります。

 

④:1992年のF-16(1982コミュニケからの逸脱)

 1992年、アメリカのブッシュ大統領(父)は台湾へのF-16の売却を承認しました。当然、中華人民共和国はこれに対して反発し、1982年のコミュニケに抵触すると指摘しています*9。1992年の時点で、アメリカは台湾への戦闘機売却には非常に大きな反発がありました。今の所、なぜブッシュ大統領が台湾へF-16を売却を認めたのかはわかりません。コミュニケから10年のタイミング、天安門事件後、香港返還前の微妙な時期ということだったのかもしれません。

 

⑤:以後無反応状態からオバマ政権では「近代化改修」を容認

 しかし、そこから27年間に渡って、アメリカは台湾への戦闘機の売却を拒絶してきました。台湾は幾度かアメリカに対して、F-16F-22F-35の売却を要求してきました*10。しかしながら、アメリカはその要求をはねつけ*11、2008年に国民党馬英九政権の誕生後、中台関係が接近する中でオバマ政権下ではF-16A/Bを改修し、F-16V相当へ性能を引き上げることに合意し*12、このほかF-CK-1の近代化によって対応することになっていたのです*13。しかしながら、これにより142機のF-16A/B、129機のF-CK-1、合計200機あまりの現代水準機を擁することになっていました。

 フランスもミラージュ2000からラファールへの更新が進む中で、台湾でもユーロファイター・タイフーンやラファールなどの購入も検討されたはずですが、いずれもうまくは行きませんでした*14

  つまり、1990年代後半から2010年代前半までの時期、アメリカは台湾に対して積極的に必要とされる以上の武器を売却することは極力さけつつ、改修プランを提案することで台湾の防空能力の向上を支援するという立場に立ってきました。

 以下は明日更新する予定です。

*1:

Taiwan seems to be benefiting from Trump’s presidency. So why is no one celebrating? - The Washington Post

*2:

U.S. Senate passes Taiwan Travel Act | Taiwan News

*3:

Trump signs pro-Taiwan 'Asia Reassurance ... | Taiwan News

*4:社评:美众院“台湾旅行法”是“摧毁台湾法”_评论_环球网

*5:

https://uscode.house.gov/statutes/pl/96/8.pdf

*6:

美国对台军售列表 - 维基百科,自由的百科全书

*7:aving in mind the foregoing statements of both sides, the United States Government states that it does not seek to carry out a long-term policy of arms sales to Taiwan, that its arms sales to Taiwan will not exceed, either in qualitative or in quantitative terms, the level of those supplied in recent years since the establishment of diplomatic relations between the United States and China, and that it intends gradually to reduce its sale of arms to Taiwan, leading, over a period of time, to a final resolution. In so stating, the United States acknowledges China's consistent position regarding the thorough settlement of this issue.

Joint Communiqué of the People's Republic of China and the United States of America ( August 17, 1982) 

*8:

http://www.us-taiwan.org/reports/2012_chinese_reactions_to_taiwan_arms_sales.pdf

*9:China denounces U.S. for okaying F-16 sale to Taiwan - UPI Archives

*10:

 Explaining the Rumors About Taiwan's Planned F-16 Purchase From the US - The News Lens International Edition

Top 3 US weapons Taiwan wants most: report | Taiwan News

*11:アメリカ政府は、台湾へのF-35の売却が台湾海峡の不安定化につながること、台湾を経由して中国にF-35の情報が流出することを恐れたとされています。

F-35 Sale to Taiwan Not Worth the ‘Risk,’ Experts Warn - Defense One

Tan, Andrew T. H. (EDT),Security and Conflict in East Asia,Routledge,2018,p.126

*12:Obama Administration Decides Against Selling F-16’s to Taiwan - The New York Times

*13:2018年に国防部はフランスダッソーからパーツの供用を受けることを発表しましたが、近代化改修の発表はなし 幻象優勢不再?空軍屬意美軍這型戰機擔任高空攔截角色 - 政治 - 自由時報電子報

*14:

とりわけフランスと台湾関係は、2008年に当時の陳水扁総統が関与しした武器売買をめぐる汚職事件と2010年のフリゲート艦ラファイエット級の売却をめぐる両国間の訴訟により事実上終りを迎えました