能登屋備忘録:台湾生活日記

能登屋の日常を淡々と描く作品です。

(台湾ニュース)「さよなら『チャイナ』エアライン?」

 

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岐路に立つチャイナエアライン

 1. 台湾と中国が繰り広げる「マスク」外交

 covid-19が猛威を振るうなかいかがお過ごしだろうか。

 台湾は「どうやら乗り切ったらしい」という雰囲気で、実際最近の罹患者はほとんどが海外からの帰国者であり、追跡もほぼ出来ている状況である。1月末から台湾は肺炎対策に様々な対策を講じてきた。マスクの増産、禁輸、実名購入制度などは目に見えた成果で、日本をはじめとする諸国で称賛された。

 これから台湾は、友好国やヨーロッパにマスクや医療品の支援を拡大させている。中国もそうだが、先に「制圧」に成功した各国は、ソフトパワーを世界に示すため積極的に支援へと動きつつある。そもそもマスクの習慣があまりない欧米にとっては、生産拡大すらおぼつかない状況で、中国などはファーウェイの5G機器購入をマスク輸出の条件に示したという報道もあり*1、札束でなくマスクで顔を殴る状態となっている。

2. 台湾で「チャイナエアライン」の社名改称が話題に

 台湾も欧米などにマスクや医療品を「輸出」しているが、それが最近物議を醸しつつある。それは、物資を輸送する「中華航空チャイナエアライン」という社名についてだ。ようは、「中華航空:CHINA AIRLINES」という社名が記された機体と、社名が記された物資えでは、受け取った人々が正しく台湾からの支援であると認識してくれないのではないかという懸念である。

 そもそも、covid-19が「武漢肺炎」と呼ばれていた頃、欧米や日本では中国人への忌避感が強まっていた。台湾人は、中国人と同一視されることへの懸念を示しつつあった。台湾の「正式な」国号は「中華民国: Republic  of China」であり、パスポートにも「China」の文字が踊る。ベトナムやモンゴルでは、台湾ではほとんど罹患者が発生していない時期から早々に台湾人の入国を拒否しつつあり、台湾人は「中国人と同一視されているのではないか」と疑念を抱いた。そこで、「パスポートに記載されているREPUBLIC OF CHINAをTAIWANに改称すべきではないか」との声が上がった。台湾人の多数がこの改称に賛成しているが、大きな物議も呼んだ*2

 

3. 台湾で進む「正名」という考え方が背景に

 台湾では長らく「正名」という考えがある*3権威主義統治態勢において、台湾は「中華民国」を守る砦であり、反攻大陸の基地であった。1971年まで、国際連合における中国は「中華民国」であったし、アメリカの同盟国として、「正しい中国は中華民国である」という主張に正当性を持たせるために、台湾でも強力に「中華文化」の保存、称揚に努めた。共産党によって破壊された中華文化は、中華民国にこそあると主張したのだ(その輝きは故宮に残る多くの文化財に代表された)。

 民主化と共に、こうした姿勢は権威主義体制の遺風、残り香であるとみなされ、特に民進党が政権を握ってからは、徐々にこうした「中華風」の呼称を「台湾化」したり、蒋介石父子の称揚施設の縮小などを進めてきた。かつて「蒋中正国際空港」と呼ばれた空港は「桃園国際空港」になったし、「中国石油」は「台湾中油」になった(中華郵政も台湾郵政に改称される予定だったが国会での同意獲得に失敗した)。もちろん、いまだに台湾でも中国、中華、中華民国を名乗る組織は数多くあるが、2000年代以降は急速に縮小しつつある。

 さて、こうした正名は、国有、国際色のある組織には一部及んでいない。中華航空もそのひとつである。そもそも中華航空は、95年に中国へ返還された香港に乗り入れるため機体のデザインを一新し、機体の「中華航空」を「CHINA AIRLINES」に切り替えている。中華航空がダメでチャイナエアラインがなぜ良いのかは分からないが、「正名」と直接の脈絡なく国際的な社名を微妙に変更させられていたのだった。しかし、台湾のフラッグキャリアである航空会社が中華航空、ないしチャイナエアラインというのは、特に欧米の人々にはよく理解できないだろう。国名と共に、「正しく」台湾を認識してほしいという認識が、現在の台湾人「大半の」共通認識となっている*4

 

4. 改称の流れと国の同意:懸念は「中国」要素

 改称にあたっては、一、取締役会、株主総会での同意、二、民間航空局、交通部の同意、三、関係機関への登録・審査、四、民間航空による関係書類の発給、五、国際組織への通知、調整等が具体的に必要とされる*5。国と関係機関が約過半数の株式を保有するチャイナエアラインにとって、こうした改称は事実上政府の同意が必要だが、交通部長の林佳龍は民意を尊重するとの立場を示している*6。懸念されるのは、改称に伴う航空路線の引き継ぎや、リース機材の改称に伴う経費などで、少なくない額が必要になるだろうし、最大の問題は「改称」すれば、現在確保している路線の時間帯などの優先権を破棄したものとみなされるために、交渉等が新たに必要とされる点である。また、「台湾独立」を警戒する中国政府は、フラッグシップが「Taiwan」を名乗ることに懸念を示すだろうし、また妨害を試みるだろうと予測される*7

 covid-19は世界のあらゆる動きや概念を破壊、変革させてきたが、台湾の国号というセンシティブな問題にも踏み込んできた。もはや、このウイルスと政治は一体のものであり、「ウイルスを政治利用するな」という考え方も、旧来の見方に属するに過ぎないのかもしれない。

 

 

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自由時報』2020年4月13日、3ページ

 

飛行機オタクチャイナエアラインコレクション

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湖西ラップ氏提供

 

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ゆだなか氏提供