能登屋備忘録:台湾生活日記

能登屋の日常を淡々と描く作品です。

(台湾ニュース)「2021年4月2日和仁・崇徳駅間で生じた台湾鉄道の脱線事故について」

 2021/04/02、台湾東部幹線(和仁~崇徳)で発生した事故についての私見

 お断りですが、私は専門家ではありませんので、その点はご承知ください。

 事故に関する報道については、中央社などでご確認ください*1

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事故区間のすぐ南(和仁~崇徳)

 

 いまのところ、断片的な情報、報道しか見ることができない。さらに、私自身は交通史研究者であって、交通工学や安全工学に詳しいわけでもないので、「専門家」として発言できるわけでもない。けれども、日本の皆さんにむけ、台湾での報道で明らかになっていることをある程度整理してお届けしたい。

 

概要:トラックとの衝突、脱線、トンネルに衝突

 事故原因は現段階では、トラックがなんらかの要因で高速走行中の列車に衝突、列車は脱線したままトンネルに突入、側壁に衝突して車両が破壊された、と見られる。トラックはその場所の工事に関与する車両ではあったが、当日の工事は行われておらず、巡回に来た工事監督者が停車させた車両が滑落したものとみられる。

 

1. トラックの滑落=不運な事故が直接要因

 一点目、この事故は基本的には不運な要因が重なったために、大きな被害が出た可能性がある、ということ。
 直接的には、おそらく坂道に停車したトラックが滑落し、走行中の列車に衝突、脱線、そのまま停車することができずにトンネル内の側壁に衝突したことで多くの被害が出たと考えられる。もしトラックが滑落して触車しなかったら、トンネルが進行方向になければ、もし安全に停車する距離があれば、ここまで多くの被害は出なかったかもしれない。こうした問題は、あとからいくらでも言えるが、あの場で発生した事故を直接防ぐことは難しかっただろうと思う。

 

 当日は休工中で、工事が事故を引き起こす直接的な要因になったわけでは無さそう*2。ただし、工事中の安全措置が不足していた可能性は否定できない。以前北部で土砂崩れが発生し、台鉄では急ピッチで復旧した。その後に乗車する機会があったものの、安全措置が完了したとは思えない中でのなかば強引な復旧という印象だった。工事現場では、しばしば完工が優先され、安全措置が不十分になり、事故が発生する。これは日本や他の国でも同様だろう。

 

2. 事故の背後には台湾の安全意識の低さか

 二点目、台湾(とくに台鉄では)、ここ数年重大な事故(やインシデント)が相次いでおり、こうした事故の発生要因、背景には確かに台湾社会の(交通)安全に対する認識や理解の不足、そしてさらには人材不足による過重労働や人の安全に対する投資への軽視、がその直接的、間接的要因になっているであろうこと。これはおそらく否定できない*3

 事故は、基本的には、「基本的なこと(動作)」が徹底されていないことで生じる。だからこそ、もしそれがおろそかになっても、大きな被害を出さないように施策を考慮することが重要になる(フェイルセーフ)。この点を徹底することは、とても困難なことではある。
 台鉄は、工事の最終的な施行者として、この点に責任は生じるであろうと思われる。

 

3. 今回の事故は車両設計に影響か

 三点目、車両という点では、今後「衝突」に対する意識に注意を向け、安全性がより向上した車両設計を考慮する可能性があるだろうという点。

 事故に見舞われたTEMU1000は、日立製作所で製造した、アルミニウム合金製の車両である。同形式は、日立製の日本向け885系との兄弟形式で、885系は2003年の衝突脱線事故でも車両が大破した。同系やアルミニウム合金製車両に問題があると私は考えないが、近年踏切で鉄道車両とトラックなどの衝突により、鉄道車両の脱線が続いており、鉄道車両は自動車などとの衝突時に、より安全であるような(乗客を保護するように)設計思想を求められる可能性がある。
 ヨーロッパでは、特にこの点がデファクト・スタンダードになりつつあり*4、日本や台湾も衝突時の安全基準制定を考慮に入れる可能性がある*5。そしてこれは、列車の運行速度にも影響をもたらすだろう。
 なお、台鉄が今後導入する予定の新型特急電車も日立製作所が担当する予定になっている(EMU3000)*6


結論:こうした事故はどこででも起こる

 私は、「だから台湾は危険だ」とか、「台湾は遅れている」とか、「日本では起こり得ない!」などと批判するつもりはない。
 こうした事故は、どの国でも起こりうる。むしろ、今回は非常に基本的なミス(あるいは不運)が事故を招いたと考えられ、こうしたミスを完全に防ぐことはできないだろうと考えられる。だからこそ、我々はまた「安全」について考え続けるべきだと考える。


 最後に、亡くなられた方や怪我をされた方、そのご家族にお見舞い申し上げるとともに、復旧作業や救命に力を尽くされている方、台湾鉄道などで仕事に従事されている方に感謝申し上げたい。