能登屋備忘録:台湾生活日記

能登屋の日常を淡々と描く作品です。

(音楽)「第二の国歌を歌うのは:愛国と音楽、『希望と栄光の国』と『歌唱祖国』」

 珍しく音楽の話をします。

 

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 世界には、「第二国歌」と呼ばれる歌をもつ国がいくつかあります。その代表的な国は、イギリスで、一般的には、「希望と栄光の国(Land of hope and glory)」、「エルサレム(Jerusalem)」、「ルール・ブリタニア(Rule Britannia!)」など複数の候補があります。


Land of Hope and Glory - Last Night of the Proms 2009

 

 中でも、希望と栄光の国は、BBCの音楽祭、プロムスにおいて毎年トリを飾り、ロイヤル・アルバート・ホールを埋め尽くした観客、ライブビューイングの観客がこの歌を熱唱します。旋律はエルガーの「威風堂々」。エルガーはこの曲を国王エドワード七世に献呈する際、国王から「歌をつける」ことを提案されます。エルガーは、アーサー・クリストファー・ベンソンに歌詞を依頼し、今でも歌い継がれる以下のような歌詞が出来上がりました*1

 この歌ができたのは、1902年、ヴィクトリア女王崩御し、エドワード七世が即位した翌年、パクス・ブリタニカ謳歌したイギリスは、まもなく大きな転換期を迎えていきます。

 

Land of Hope and Glory,
Mother of the Free,
How shall we extol thee,
Who are born of thee?
Wider still and wider
Shall thy bounds be set;
God, who made thee mighty,
Make thee mightier yet
God, who made thee mighty,
Make thee mightier yet.

(合唱)
希望と栄光の国
其は自由の母よ
我らは汝をいかに称えようか?
我らを産みし汝を。
広大に、いっそう広大に
汝の土地はなるべし
汝を偉大たらしめし者たる神が
いっそう汝を偉大にしますように
汝を偉大たらしめし者たる神が
いっそう汝を偉大にしますように

 

 言うまでない話ですが、国歌と近代国家、ナショナリズムは不可分な関係にあります。第二国歌というのは、ほとんどが公式な位置づけを与えられていないものの、広く国民に愛唱される国歌を言うことが多いです。ラ・マルセイエーズ義勇軍進行曲などが、革命や戦争の中で広く人口に膾炙したように、いわゆる第二国歌も近代国家、新しい国家の成立の中で、人々へと広まっていった曲が多く、そこには国歌に勝るとも劣らないナショナリズムが流れています。

 希望と栄光の国では、「Wider still and wider」が聞いていてとても印象に残るフレーズです。広くより広く、というメッセージは、帝国主義国家として絶頂期にあったイギリス、大英帝国を象徴するフレーズです。こうした帝国主義的拡張が、植民地を生み、搾取の構造を創造しただけでなく、他の列強との対立を招く要因になったわけですが、この時代はどこまでも晴れやかに祖国の永久の繁栄を祈っています。

 こうした傾向がより強いのは、ルール・ブリタニアで、歌詞には「Rule, Britannia! Britannia, rule the waves Britons never never never shall be slaves」と海を統べ、奴隷になることはけしてない、海洋国家イギリスの誇りを歌い上げます。こちらはより古く、1740年代には作られたとか。まさに国民国家を作り上げた歌と言えます。

 

 一方で、第二国歌のアジア代表と言えるのは、中国でしょう。中国では、文化大革命期のゴタゴタで、現在の「義勇軍進行曲」が事実上「東方紅」に置き換えられた時期もあり、国歌のプロパガンダ要素、あるいは作詞作曲者の要素は国家政策と如実に結びつきます。

 東方紅毛沢東を称える歌ですので、ここでは「歌唱祖国」を取り上げます*2。厳密に言えば著作権が切れていないのですが*3、どうにかこらえてください(誰に?)。

五星红旗迎风飘扬(五星紅旗は風を受けてたなびく)
胜利歌声多么响亮(勝利の歌声はかくも響き渡る)
歌唱我们亲爱的祖国(我々の愛する祖国を歌おう)
从今走向繁荣富强(これより繁栄富強へ向けて歩む)
歌唱我们亲爱的祖国(我々の愛する祖国を歌おう)
从今走向繁荣富强(これより繁栄富強へ向けて歩む)
越过高山 越过平原(高い山を越え 平原を越え)
跨过奔腾的黄河长江(ほとばしる黄河、長江を跨ぎ越え)
宽广美丽的土地(美しく広大な土地)
是我们亲爱的家乡(これが我々の愛する故郷)
英雄的人民站起来了(勇敢なる人民が立ち上がった)
我们团结友爱坚强如钢(我らの団結と友愛は鋼のように強い)
五星红旗迎风飘扬
胜利歌声多么响亮
歌唱我们亲爱的祖国
从今走向繁荣富强
歌唱我们亲爱的祖国
从今走向繁荣富强
我们勤劳 我们勇敢(我々は勤勉で我々は勇敢)
独立自由是我们的理想(独立自由は我らが理想)
我们战胜了多少苦难(我々は苦難を戦い抜き)
才得到今天的解放(今日の解放を勝ち得た)
我们爱和平(我々は平和を愛し)
我们爱家乡(我々は故郷を愛す)
谁敢侵犯我们就叫他灭亡(我々を誰が侵略しよう。さすればすぐ彼を滅ぼす)
五星红旗迎风飘扬
胜利歌声多么响亮
歌唱我们亲爱的祖国
从今走向繁荣富强
歌唱我们亲爱的祖国
从今走向繁荣富强
东方太阳 正在升起(東方の太陽はまさに昇り)
民共和国正在成长(人民共和国もまさに成長する)
我们领袖毛泽东(我々の領袖毛沢東
指引着前进的方向(前進へと導く)
我们的生活天天向上(我々の生活は日々上向き)
我们的前程万丈光芒(我々の前途は揚々と)
五星红旗迎风飘扬
胜利歌声多么响亮
歌唱我们亲爱的祖国
从今走向繁荣富强
歌唱我们亲爱的祖国
从今走向繁荣富强

 

 

 1950年代の歌ですので、プロパガンダゴリゴリです笑。こうしたプロパガンダで新中国の正統性をあまねく広めたわけで、まさしく第二国歌たる所以があります。

 今なお、オリンピックや各種記念式典で高らかに歌われます。歌はときに、人々を団結させ、苦難を共にする糧となります。それゆえに、その使いどころと歌い手の意図を忘れてはならないように思います。

 

 


SNH48《歌唱祖国》MV

 

 最後に、香港で最近「国歌」がつくられたことをご紹介しておきます。プロパガンダのバランスを取らねば……。

 


香港に栄光あれ 《願榮光歸香港》交響楽団&合唱【英語&日本語字幕】《Glory to Hong Kong》