能登屋備忘録:台湾生活日記

能登屋の日常を淡々と描く作品です。

(台湾ニュース)「台湾高鉄、宜蘭延伸へ」

 台湾交通部の林佳龍部長は10月23日、立法院(国会)にて報告を行い、「交通部の予備調査によると台湾高速鉄道の宜蘭への延伸は可能である」と発表しました*1

 環境アセスメントなどが順調に進めば、9~10年程度で完成との見込みとのことです*2。 

 

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台湾高鐵(ウィキメディア・コモンズより)

 ①:現在の東部幹線は海岸沿いに建設され遠回りを余儀なくされている

 現在、台北と宜蘭を結んでいるのは、もとを辿れば1910から20年代にかけて開業した「宜蘭線」(1924年全通)で、当時から台北~宜蘭を鉄道で結ぶためには、この両地の間にある「雪山山脈」(最高峰は苗栗に所在)の攻略が必要で、1910年代の土木技術では不可能な話でした。

 その後、台湾光復後は改良が重ねられ、1960年代から80年代にかけて断続的に複線化と新線の敷設などが行われました。現在では、旧線の一部がサイクリングロードとして開放されています。2000年代には電化も進み、現在では台北~宜蘭、宜蘭線は蘇澳~花蓮を結ぶ「北廻線」と一体的に運用され、「東部幹線」として扱われています。

 

②:2006年に「蒋渭水高速道路」開通、宜蘭へは高速経由が最適解に

 1980年代から、台湾では東部地方の開発に積極的に着手し始め、台北と宜蘭を結ぶ高速道路の建設が計画されました。海岸部を走る台2線、山間部を走る台9線、さらに鉄道が両地を結んでいましたが、経済発展のなかで輸送需要が拡大、鉄道と一般道路だけでは対応ができなくなっていました。

 しかし、そこでやはり大きな問題となったのは「雪山山脈」で、3000m級の山岳の直下に10km以上もの長大トンネルを敷設するのは、多くの時間と労力が必要でした。

 1991年の工事開始から15年、2006年に「雪山トンネル」が完成、蒋渭水高速道路の一部として台北~宜蘭を高速道路が結ぶことになりました。この約13kmにもおよぶトンネルの開業により、台北市内と宜蘭市内は、わずか30分程度で結ばれることとなったのです。市内からは、市政府や台北駅のバスターミナルから高速バスが頻発されることとなっていったのです。台北駅基準ですと、さすがに自強号(プユマ号、タロコ号)は最速1時間程度と有利ですが、市内各所だと直行する高速バスが時間的、価格的(約120元程度)、設備的にも有利で、高速道路が混雑する連休以外は高速道路の利用が一般的になりつつあります。

 

③:鉄道によるトンネル敷設の野望「北宜新線」

 当然、台湾鉄道としては鉄道による両地間の短絡を目指した新路線、「北宜新線」の敷設を計画します。2011年から、交通部と台湾鉄道はトンネル開削による台北~宜蘭間高速化を検討し始めます*3。この案では、南港から頭城間にトンネルを敷設し、既存約100kmの宜蘭線区間に対して新線約40km、既存線20km、全約60kmの新路線を敷設するというものでした。

 しかし、2019年8月に、交通部はこの北宜新線案を事実上高速鉄道による新路線の敷設に統合、代替することを決めます*4。2018年に宜蘭線で発生した脱線事故が、普通鉄道による高速化計画に影響を与えたものと見られます。

 

④:台湾高鉄宜蘭延伸の費用と効果

 では、高速鉄道が宜蘭に延伸するにあたって、どれぐらいの費用と効果が認められると考えられているのでしょうか。

 まず費用面です。高速鉄道を敷設する場合に要する費用は、「955億NTD」(約3,500億円)と考えられています。これは、普通鉄道による敷設案「668億NTD」より約280億NTD(約1,000億円)高いものです。

 これに対して、所要時間では、普通鉄道が「27分」に対して、高速鉄道では「13分」と予定されています。台北宜蘭で考えれば、高速鉄道の場合30分を切ることになります*5

 

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高鉄宜蘭延伸案

 交通部長の林佳龍は、将来的には台湾を一周する高速鉄道を敷設し、台湾を6時間で一周できるようにしたいとの抱負を述べています*6。確かに、花蓮・台東への高速鉄道敷設に向けて、宜蘭への高速鉄道敷設は直近最大の課題と言えるでしょう。

 しかし、野党議員からは、わずか10分程度の短縮効果に1000億円もの追加費用を要することへの批判が提起され、「選挙対策である」との批判も見られます。また、環境団体は環境への負荷が大きいとして反対する動きも見せており、来年の総統選如何によってはまた情勢が大きく変化する可能性もあると思われます。

 いずれにせよ、現状では宜蘭線・北廻線・東部幹線の輸送量は逼迫している状況であり、抜本的な対策は避けられない段階であると思われます。