能登屋備忘録:台湾生活日記

能登屋の日常を淡々と描く作品です。

(近代建築探訪)台北市中正区「旧三井物産台北支店」(土地銀行営業部)

 

 台北駅からほど近い場所に、公園(二二八和平公園)があり、そこには国立台湾博物館があります。この博物館はもともと台湾総統府によって建設された博物館でしたが、この周囲には多くの歴史的建造物が残されています。総督府からも台北駅からもほど近いこのエリアは、おそらく東京の日本橋や丸の内といった風情の街だったのでしょう。いまは少しずつ変貌を見せつつありますが、いまでもこの地域は多くの銀行が本店や支店を置く銀行街になっています。

 その博物館前にひときわ目立つ建築が背中合わせに立っています。ひとつはいかにも銀行建築という堂々とした体躯の日本勧業銀行台北支店、もうひとつはモダンな装いを主張する「三井物産台北支店」です。

 

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三井物産は日治台湾の総合商社だった

 三井物産は日本による台湾統治がスタートするとほぼ同時に台湾での商業活動を開始しました。彼らが取り扱った商品は、砂糖、米、茶、樟脳、石炭など台湾で算出されるあらゆる産品に及びました。台北支店は、こうした取引の中心地だったわけです。

 

 

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周囲には博物館や銀行などが集中する

 この三井は、1920年に支店ビルの新築を決定します。設計は総督府を退職した野村一郎、施工は矢部組と三井自身が担当したようです。建坪220坪に約300坪の延床面積を持つビルを総工費45万円で作ったといいます。

 室内には支店長室や事務室、会議室、食堂の他に電話交換室、貴賓室、エレベーターなどが設置されていた。また当時としては最新式の浄水設備が設けられ、水洗式のトイレが設置されていたそうです。

 文化部のウェブサイトを見ると、本建築は1920年に竣工したことになっているのですが*1、当時の新聞を調べると1922年4月20日竣工、30日に落成披露式をしたとの記述があります*2

 

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屋上には塔屋がある?

 しかし、1922年に竣工したこのビルは、現在の姿とは似ても似つかないものでした。交差点に面した部分には鐘楼のような塔屋がそびえ、各階にはコロニアルなバルコニー風の外廊下が巡っていました。
 先程のウェブサイトによると、1940年に改修されほぼ現在の姿になったようです。これはこれでシンプルかつモダンな感じがしますが、やや地味でしょうか。戦後は政府系金融機関の土地銀行が利用し、現在も土地銀行が所有しているようです。一見して使われていないのですが、なにか活用案があるのでしょうか。

 設計した野村一郎は、総督府の技師として、總督府官邸、台北博物館(国立台湾博物館)などを設計しました。帰国後は朝鮮総督府の設計にも関与したようですが、なぜかあまり資料が残されていませんでした*3

 

<地点>

三井物産台北支店旧址(台北市指定古跡):台北市中正区館前路54号

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