能登屋備忘録:台湾生活日記

能登屋の日常を淡々と描く作品です。

(近代建築探訪)台北市中正区「台灣基督教長老教會濟南教會」(台北幸町教会)

f:id:noto92:20190828001806j:plain

1916年竣工、設計:井出薫

 台北には日本統治時代の建築が多数残されています。総統府、行政院、法院、政府の主要な施設は100年ほど前に建てられたものですし、台湾大学の主要な校舎も90年ほど前の大学成立時に建てられたものが使われています。戦後70年の間、それらの建築はあるものは改修を受け、あるものは建て替えられ、あるものはまたそのままの姿で使われ続けています。台湾では近年、こうした歴史的建造物の復原、リノベーションが進められています*1。こうした台湾に残る近代建築を、当ブログでも折に触れてご紹介できればと思っています。

 

 

建設までの略史

①:設計は総督府技師の井手薫

f:id:noto92:20190828001818j:plain

堂宇

 さて、今日ご紹介するのは台北市中正区に所在する「台灣基督教長老教會濟南教會」です。いわゆる教会です。付近には、行政院、監察院、台大医院など近代建築が密集するスポットです。この教会は1916年、台北幸町教会として建設されました。設計は台湾総督府技師の井手薫です。井手は建功神社、台湾総督府高等法院(現司法大厦)、台北高等学校(現師範大学)など総督府関連の建築を数多く手掛けた人物で、おそらく今後何度かご登場を願う人物です。

 この濟南教會は当時の台北庁に隣接しており、いわば日本人による植民地経営の中心地に所在します。こうした立地が代表するように、竣工当時のこの教会は日本人信徒を主たる対象とした教会堂だったようです。

 

②:台湾における長老教の伝道は日本統治以前に遡る

 さて、台湾におけるキリスト教の布教は、オランダの統治、そしてスペインの統治期にはすでに始まっていましたが、その後鄭成功時代、清朝統治期を通じて退潮していました。その後、スコットランドの長老派(プレスビテリアン)によって布教が再度試みされ、日本の統治より以前の1865年に台湾南部を中心に布教が始まりました。北部での布教はやや遅れてカナダの長老派によって行われましたが、その中心人物となったのは今も病院など各地に名を残しているマッケイ、馬偕です。

 日本の領有後、台南では日本軍への降伏使者として教会のバークレイ、ファーガソンが送られるなど、日本統治後もスコットランドやカナダから送られた牧師は日本でもない、台湾でもない立場から日本の統治を見守る、待ち受ける立場となりました。

 

③:日本基督教会(長老派)による布教

 日本統治が始まった1895年時点で、すでにスコットランド・カナダ系の長老派教会が存在していました。その後、日本の長老派、日本基督教会も台湾への牧師の派遣を決定します。彼らは台北へやって来、前述の馬偕の支援を受けながら、布教活動をスタートします。1896年には「台北日本基督教会」(台北教会)を成立させ、1898年には教会の新築を建議し、児玉源太郎の間接的な協力もえつつ1900年に実現させます。

 1906年には、日本基督教会台湾中会を成立させ、1907年にはさらなる拡大を目指し新たな教会の建設計画をスタートします。8年にも及ぶ募金活動を経て、1915年に着工、1916年に竣工します。これが現在の濟南教會の教会堂です。このときもやはりその布教の対象は日本人が中心でした(台湾人も参加していましたが)。その後、彼らは台湾人への布教も開始し、新たに「大稻埕」にも教会堂を設置したことで、1937年にこの台北教会は「台北幸町教会」に改称されました。その後、1944年に日本のキリスト教諸派は「日本基督教団」に再編されました。台湾のキリスト教諸派もまた同教団に再編され、幸町教会も包摂された。

 

④:戦後は「台湾基督教長老教会」に包摂

 1945年の敗戦により、日本人信徒は日本への帰国を余儀なくされ、また国共内戦の結果中国大陸の一部の人々も国民党に従って台湾へ渡りました。この教会は、戦後の歴史の中で、かつてスコットランドやカナダ人宣教師が中心となって設立された台湾基督教長老教会の所管に移管されます。日本基督教会とは同母兄弟のような関係にあった彼らは、日本時代にも折りに触れこの教会と関わってきましたが、戦後正式に直系の関係を結ぶことになりました。幾度かの改名を経て、かつての「台北幸町教会」は「台灣基督教長老教會濟南教會」となったのです。

 

⑤:建築様式

・竣工年:1916年8月

・設計者:井手薫(台湾総督府技師)

・建築様式:ネオ・バロック

・建築方式:レンガ造り(台湾煉瓦株式會社製)

 

f:id:noto92:20190828001752j:plain

夜は荘厳さと暖かさと。

参考文献

・全般に渡って、教会のHPを参考にしました。

www.chi-nanchurch.tw

 教会のホームページには多彩な角度、外観内観に注目した写真が掲載されていますのでぜひご覧ください。

www.chi-nanchurch.tw

 ・牧尾哲(1932)『台湾基督教伝道史』、牧尾哲