能登屋備忘録

能登屋の日常を淡々と描く作品です。

(中国ニュース)「ウイグル人学者、中国で死刑の危機」

 中国政府、中国共産党によるウイグル人への弾圧、迫害が日に日に大きなニュースになっています。国際社会としては中国の影響力への恐れから、どちらかと言えばこの問題には及び腰です。これは「同胞」たるイスラム社会においてもそうです*1

 日本において、ウイグル問題はどちらかといえば、右派による中国共産党、中国への攻撃材料として使われている感があり(香港、台湾問題もそうですが)、私としてはなかなか触れづらい問題です。私自身残念ながらウイグルへの訪問経験はありませんし、ウイグル語も解しません。しかしながら、私の見た範囲で、ウイグルに関して気になったニュースをご紹介したいと思います。前述の理由から、日本語記事、資料は目下バイアスが掛かっている可能性がある状態ですので、私の理解が及ぶ範囲で中国語、英語記事などから引用したいと思います。

 

<要約>

 ウイグル人の学者2名は昨年「分裂国家罪」への抵触を理由に死刑判決を受けたが、その執行が迫り危機的状況にある

 

 ①:ウイグル基本情報

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新疆ウイグル自治区ウィキメディア・コモンズより)

 ウイグル新疆ウイグル自治区は現在、中国の西北部に位置し、人口約2,500万人が暮らしています。省都ウルムチに置かれ、面積は中国最大です。人口の約半分がウイグル人です。

 この地域の歴史は長く複雑なのですが、かいつまんで言うと清朝がこの地域を征服、一時的な独立を経て再度左宗棠がこの地を征服、19世紀までに省制度が敷かれ、そのまま中華民国中華人民共和国の版図として引き継がれました。

 中華人民共和国の成立後はその歴史と軌を一にしましたが、面積の25%程度が砂漠という厳しい環境の中、大躍進政策文化大革命においてひときわ厳しい状況に置かれ、とくに1962年には6万人もの亡命者を出しました。ウイグル人はほとんどがムスリムですが、そのために2001年の同時多発テロ事件の発生以降特に厳しい監視対象とされ、現在に至るまで中国当局による徹底的な統制、管理が行われています。

 また中華人民共和国の成立後、内陸部に所在し、乾燥した環境というなかで、食料の自給を推進すべく開墾が政策的に進められることになり、1954年に新疆生産建設兵団という組織が設立され、主に漢族の移民による農地開発が進められることになりました。現在でも、彼らは企業組織として約250万もの人員を有し、ウイグル地域経済の中心企業と言われますが、漢族による新疆支配の中心組織でも有るわけです*2

 2009年7月、ウルムチウイグル族の暴動が発生、200名の漢族が殺害されるという事件が発生して以降(2009年ウイグル騒乱、新疆七五事件)、新疆に対する中国政府の様々な圧力は加速していきます。その裏で、2013年にはウイグル人が運転する自動車が天安門に突っ込み5人が亡くなる事件、昆明駅での無差別殺人で30人が亡くなるなど、ウイグル族によるテロ行為も散発的に続くことになりました*3

 2000年代以降、ウイグル族に対する中国政府の「漢化」政策、教育は一貫していましたが、2014年以降はさらに「テロとの戦い」を強調し、ウイグル族への弾圧を正当化していきます。

 

 

②:ウイグルで進む人権侵害

 遅くとも2016年頃から、ウイグル人を再教育施設(’re-education’ camps)へ強制的に送り込む動きが見られたようですが、2017年以降その動きは加速し、2018年までの1年間で、こうした施設の面積は約5倍以上に増加しているようです。こうしたデータは、主に人工衛星によって教育施設と見られる施設のデータを比較することで得られています*4。現在ではすでに1200以上の施設があり、中国全土の人口比でわずか1.5%を占めるに過ぎない新疆で、中国全土の20%もの「犯罪」が発生し、「犯罪者」がこうした施設に収監されていると報告されています*5

 こうした施設では、職業訓練や中国語教育が施されているとされていますが、その実態はウイグル族への文化的、言語的剥奪が行われているとされ、この再教育施設には数十万から100万人が収容されているといいます*6。こうした逮捕、収監の根拠となる「罪」が、「危害公共安全罪」であり、「擾乱社會秩序罪」です。「新疆年鑑」によると、「危害公共安全罪」を名目に逮捕された人数は10年前と比較して30倍に「擾亂社會秩序罪」もやはり30倍近い逮捕者を出すようになっています*7

 こうした再教育施設のなかで、いかなることがおこなわれているのか。我々はただ漏れ聞こえる体験談からうかがい知ることが出来ませんが、習近平毛沢東への礼賛や暗唱を強制され、宗教的迫害を受ける、性暴力に晒される、といった証言があります。そのひとつひとつが辛く悲しいものなのでここでは引用しませんが、はっきり言ってにわかには信じられないような自体がウイグルで発生している(可能性があります)。

 

③:ウイグル人学者もつぎつぎに収監

 実際に、中国国内のウイグル人学者は、なんらかの危険に晒されています。たとえば、中央民族大学の教授で穏健派ウイグル族と呼ばれたイリハム・トーティ(Ilham Tohti)は、2014年に国家分裂罪により終身刑が宣告されました*8。あるサイトでは、こうした当局によって収監されたウイグル族研究者がデータベース化、リストにまとめられています*9

 今回欧米などで衝撃が広がっているのは、新疆大学教授で学長も務めた地理学者のタシポラット・ティイップ(Tashpolat Tiyip)と、新疆医科大学教授で学長、医学者のハルムラト・ウプール(Halmurat Ghopur)がやはり国家分裂罪を犯したとして、死刑判決を受けたためです*10。学界などは、当局に対して彼らへの死刑執行を取りやめるように署名、呼びかけを行っています*11

 アメリカ上院は9月、「ウイグル人権政策法」(Uyghur Human Rights Policy Act)を通過しました。この法は「ウイグルでの人権弾圧に関わる官僚への制裁、中国政府関係企業への制裁」を実現するものですが、発効するには下院での審議と大統領の署名が必要です*12

 またアメリカ政府は、一連の中国政府のウイグル族への弾圧を考慮して、中国政府高官へのビザ発給を制限する方針を示し*13、10月8日にはアメリカ商務省が新疆での人権侵害に関わっているとして8社をブラックリストに登録、無許可での貿易を禁止しました*14

 これに対して、中国政府は一貫して国連や諸外国からの「ウイグル族への弾圧をやめるように」との呼びかけは内政干渉であるとして反発しています。