能登屋備忘録:台湾生活日記

能登屋の日常を淡々と描く作品です。

(香港ニュース)「香港警察トップ交代、タカ派人事へ」

 昨日の記事にもちらっと書きましたが、香港警察のトップである警務処処長が交代しました。これは予め予定されていた交代に近く、更迭とは言い難いものですが、その後任はより「タカ派」の人物とされ、香港民主化運動にさらなる暗雲が垂れ込めそうです。

 

notoya.hatenablog.com

 

 

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雲垂れこめる香港島

①:中国国務院は19日新たな警務処処長を任命

 香港警察のトップ、警務処処長は「一哥」と呼ばれ、かつてイギリス植民地時代は総督に次ぐ実力を持つ存在として知られていました*1

 これまで香港警察警務処処長は盧偉聰が務めてきましたが、19日から鄧炳強が就任することとなりました*2。 もともと、前任の盧は任期を一年延長しており、18日に任期満了を迎えたことから、その交代は基本的には更迭と呼べるものではないようです。なお、香港警察警務処処長は、香港政府の指名により、中国政府が任命することとなっています。

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新警務処処長の鄧炳強氏(左、香港政府ウェブサイトより)

②:鄧炳強氏経歴、インターポール勤務など海外経験豊富なエリート

 鄧炳強氏は、香港の名門大学であり、先日のデモ隊と警察隊の衝突の舞台ともなった香港中文大学を卒業したエリートです。今年54歳、32年の警察人生のうち、主には刑事・保安部門を担当し、かつてはインターポールでの勤務経験もあり、またアメリカFBIやイギリス王立国防研究院、中国浦東幹部学院、中国人民公安大学など、国内外複数の機関での研修経験もある、香港警察の中でも生粋のエリートと言えます。

 警察では、元朗区指揮官、港島区副指揮官、港島区指揮官などを経て、警務処副処長を務めるなど、治安部門の経験も豊富です*3

 

③:新トップは「タカ派」、より厳しい局面もありうる

 鄧炳強氏は、香港内外でタカ派として知られており*4、一説によれば、北京の中国政府は前任盧氏の姿勢を生ぬるいものと感じていたといいます*5

 鄧炳強は過去数ヶ月、自ら前線を視察し、実行部隊とも熱心にコミュニケーションを取っていたとされます。また彼は前線に対して、武器使用に際しては本部の許可は不要であること、実弾の使用を許可する旨を表明しています。また同時に、新たな副処長には蕭澤頤(行動)と郭蔭庶(管理)が任命されましたが、鄧炳強をトップとしてタカ派人事で固められ、「鐵三角」(鉄トライアングル)の形成されたと報じられています*6

 

④:五大要求における「香港警察」の暴力

 過去のブログにも書きましたが、現下の香港においてデモ隊は「五大要求」と呼ばれる要求を政府に提示しています。

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 改めて書きますが、その要求とは(1)条例改正案撤回、(2)デモに対する「暴動」認定の取り消し、(3)香港警察の暴力行為への独立調査委員会の設置(4)拘束されたデモ参加者の釈放、そして(5)「普通選挙の実現」です。

 現状では、1以外はすべて香港政府、中国政府ともに頑なに拒否する状況であり、そのことが先行きの見通せない原因となっています。

 しかしながら、TwitterFacebookなどのSNSなどを通じて「香港人」が発している情報からは、圧倒的に香港警察への不審が大きく、香港警察の「透明化」、香港警察の組織暴力の解明といった点に最も大きな問題意識を抱えていることが見て取れます。

 実際、香港市民に対する調査では、香港警察に対する信頼度は10点満点中で2.6。しかも回答者の約半数は0をつけており*7、その信頼の低下が今時のデモの核心となっているように思えます。

 五大要求のうち、最も解決策を見出しやすい部分こそが、香港警察の改善。つまり、香港警察の現状をいかに民主的な、香港市民の納得できるものへと転換できるかではないか、私はそう思います。 

 

⑤: 新トップにはヤクザとの癒着の噂も

 しかし、現実に香港政府、中国政府が採った策はその真逆とも言えるものでした。トップへのタカ派の任命、そして理大での大規模な衝突。香港市民の警察不信はより高まることが考えられます。

 さらに、新たなトップである鄧炳強氏には、かねてから香港マフィアとの癒着が噂されていました*8。しかも、氏がかつて指揮を取った元朗地区は、これまでにデモ隊が謎の集団にリンチを受けた地域でも有り、関連が噂されています。

 

⑥:「覆面禁止法」は違憲、中国は反発

 今週18日、香港高等法院、民主派の抗議デモ参加者の覆面を禁じるという条例が「香港基本法」(憲法に相当)に違反しているとの判断を示しています*9。一方で、中国政府は、「香港基本法に違反しているかどうか判断できる」権利(いわゆう違憲立法審査権)を持っているのは、全人代常務委員会のみであるとし、香港高等法院の判断は、中国の香港統治に挑戦するものだと激しい反発を示しています*10

 こうした中での警察トップの交代は、香港の現状をさらに混迷に導く可能性があります。