(台湾社会)「アフリカ豚コレラ:外国から肉を持ち込んではならない」
最近台湾にお越しになった方は概ねお気づきになったでしょう。特に、フルサービスキャリアと呼ばれるお高めの航空機に乗ってぼんやり座席のモニタを眺めていた方々は強制的に台湾着陸前に1分程度のビデオを見せられたはずです。
このビデオの言わんとする所は、「世界中でアフリカ豚コレラというやべー病気が流行っていて、それを防疫するため台湾に肉製品、特に豚肉製品を持ち込んではいけませんよ。無断で持ち込むと数万元~100万元の罰金が生じますよ」というものです。
今日はこの「アフリカ豚コレラ(あふりかとんこれら)」の話をします。
①:豚コレラとアフリカ豚コレラ
実は私、アフリカ豚コレラと豚コレラの違いがよくわかっておらず、「同じやろ」と思っていました。 なので、台湾へ入国する際に、「日本は非汚染地区なのでこのカード持ってってください」と言われるたびに不思議に思っていました。「日本も汚染地区やのになんで?」
でも違ったんです。日本厚生労働省の説明をお読みください*1。
ASF(アフリカ豚コレラ)は、ASFウイルスが豚やいのししに感染する伝染病であり、発熱や全身の出血性病変を特徴とする致死率の高い伝染病です。
本病は、ダニが媒介することや、感染畜等との直接的な接触により感染が拡大します。
本病に有効なワクチンや治療法はなく、 発生した場合の畜産業界への影響が甚大であることから、我が国の家畜伝染病予防法において「家畜伝染病」に指定され、患畜・疑似患畜の速やかな届出とと殺が義務付けられています。我が国は、これまで本病の発生が確認されておらず、本病の清浄国ですが、アフリカでは常在的に、ロシア及びアジアでも発生が確認されているため、今後とも、海外からの侵入に対する警戒を怠ることなく、本病の発生予防に努めることが重要です。
なお、ASFは豚、いのししの病気であり、人に感染することはありません。
また、現在、我が国で発生しているCSFとは、全く別の病気です。詳しくはこちら*2。
んじゃあ、ASFとCSFの違いはなんなんという話になるのですが、端的に言えば症状が似ているだけで原因となるウイルスが違います。前者がDNAを、後者がRNAの鎖を持つそうです(なんのこっちゃ)。でまあ、CSFはワクチンが有るのですが*3、ASFのワクチンはいまのところ有りません*4。ASFは感染した場合ほぼ確実に死にます。なので大事なのですね。
②:ASFの拡散と防疫
ASFは、以上のように、目下のところ「発生してしまった」場合には、拡散を防止する以上の対策が確立されていません。また、加熱された食品からもウイルスが発見された例があります*5。冷凍では1千日、冷蔵では百日生き続けることが出来、食品残渣やダニを通じて感染することが知られており、人間を介しての感染可能性もあり、汚染国への渡航時には養豚場などへ近寄らないなどの対策が不可欠です。
汚染した豚肉中で長期間感染力を維持するため、精肉や非加熱の豚肉加工品を介して遠隔地に持ち込まれ、食品残渣の給与等を通じて未発生地域に侵入する*6
感染経路は多岐に渡りますが、代表的な例としては豚やいのししがASFウイルスに汚染された餌を食べて感染することが挙げられます。この場合、ウイルスに汚染された精肉や非加熱の豚肉製品が重要な感染源となります。また、感染した豚やいのししとの接触により、豚の口や鼻などからウイルスが侵入することもありますし、体表の傷などを通して血液中にウイルスが直接入り込むことでも感染が成立します。人の長靴や衣服あるいは車両などを介してもウイルスが拡散されます。アフリカではヒメダニ属のダニがウイルスに感染したイボイノシシなどの野生動物を吸血した際、血液と一緒にウイルスを吸い込み、それを未感染の動物に運ぶことによる感染拡大が知られています*7。
③:ASF汚染国
ASFに関してショッキングだったのは、2018年に中国での発生が確認されたためです。名前のように、主にアフリカを中心としていましたが、近年ユーラシア大陸で急激に拡大し、中国・ロシア、韓国、東南アジア、東ヨーロッパと世界的に大きな問題になりつつあります。
日本と台湾はもはや東アジアでは数少ない非汚染国ですが、中国・朝鮮半島とも近く、感染の拡大が懸念されている状況なのです。繰り返しになりますが、一度侵入を許せば感染拡大を防ぐのが難しいため、防疫を強化する必要があるわけです。
今後は日本でも、「許可なく肉製品を持ち込んだ場合」の罰則が、「3年以下の懲役または100万円以下の罰金」から強化される予定です*8。日本へ許可なく肉製品の持ち込みを行わないようにしましょう。日本へ持ち込まれそうになった食品からもウイルスが検出されています*9。
④:ASFと中国、台湾
世界最大の豚肉生産国である中国の汚染は、中国だけでなく世界的に重要な問題です*10。問題なことに、台湾の最も大陸に近い領土である金門島には、大陸からしばしば感染豚の死骸が漂着しています*11。
台湾では、こうした中国からの「贈り物」に神経をとがらせており、罰則の強化や空港での検疫強化などの対策が取られています。
台湾では、中国などの汚染国から肉類を持ち込み、発覚した場合には、一度目は5万元、二度目は50万元、三度目は100万元の罰金が課せられることになっています。日本など非汚染国からの場合は、最大30万元の罰金が課せられます*12。外国人の場合、納付するまで入国が許されません。台湾へ肉類は絶対に持ち込まないよう気をつけてください。
<参考>
*1:「コレラ」という名前が人間への感染を想起させるとの理由で、今後日本では、豚コレラをCSF。アフリカ豚コレラをASFと呼び習わすようです。http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/csf/attach/pdf/index-385.pdf
*3:CSFワクチン 空中散布の実験|NHK 首都圏のニュース
*4:ワクチンない伝染病ASF 予防的な豚の殺処分へ 農水省 | 注目記事 | NHK政治マガジン
*5:https://www.miyazaki-u.ac.jp/cadic/divweb/sah/Asia%20and%20ASF.pdf
*6:動物衛生研究部門:ASF(アフリカ豚コレラ) | 農研機構
*7:ASFにはどのようにしてかかるのですか? | 農研機構
*8:アフリカ豚コレラの水際対策 防疫官の権限強化へ | NHKニュース
*9:https://www.shokuniku.co.jp/4944
*10:中国 アフリカ豚コレラで物価上昇 消費に懸念も | NHKニュース