能登屋備忘録:台湾生活日記

能登屋の日常を淡々と描く作品です。

海外旅行で気をつけるべきこと

 ご報告したのかどうか、もはやこれを読んでいる読者諸賢にとっては既知だろうからあまり関係はないのであるが、私はいま海外に住んでいる。といって、コートジボワールコソボに住んでいるわけでもなく、オキナワの一寸先、台北に住んでいる。本記事は、そんな台北に住むひとりの人間の生活の記録……ではない。

 海外旅行、海外生活で気をつけるべき基本的な時候を、ある2つの物語から明らかにせんとするものである。

 

 


 台北はいわば東京23区で、いわゆる「多摩」にあたる新北を合わせると(雙北)人口約700万人の大都市圏を形成している。台北には、サイゼもあれば吉野家もかつやもワタミも、アニメイトとらのあな三越もある。映画館では『ガールズアンドパンツァー最終章』をやっているし、『リズの青い鳥』だってやっている。テレビをつけれ邦画チャンネルもある。日本の地方都市と比べてもはるかに「日本」なのである。どっかの石川の山ん中でキノコ生やしてるよりよほど「日本」生活を謳歌できるかもしれない。とはいえそこは異国。バイトの時給は140元(500円ぐらいか)、お弁当1個80元(300円ぐらいか)。ことばも違えば習慣も違う、苦労は苦労でそれなりにあるだろう。


 海外生活をする、あるいは海外旅行へ行くときに気をつければならないこと。言うまでもなくそれは「パスポート」である。国を出ても自分が誰であるかを証明できる国際的な顔写真入りの身分証、それがパスポートである。「言われなくても分かっている」と言いたい読者諸賢が多いことは知っている。大多数はそうなのだ。パスポートを無くすバカがどこにいるのか。海外旅行失敗談でもなかなか見ないぞそんなこと、せいぜい成田へうどんを食いに行くぐらいが関の山だ、そう思うだろう。幸い私はパスポートを失くしたことはない。ただ、いわゆる在留カードを某大学の図書館で忘れてしまったことがある。これは海外生活で二番目に大事なものなので、あまり他人は笑えない。

 


 2月、友人D氏(當時はまだDだったのだ)が台湾へライブ観戦へやってきた。なぜわざわざ台北へ来てまでライブを観戦するのかは面倒なので書かない。とにかく彼は意気揚々と台北へ来、駅のロッカーへ荷物を片付け、ライブを観戦し、うまい飯を食い、酒を飲み、さあ宿泊先へ向かうぞと駅へ戻ってきた。ところがである。ロッカーが開かない。


 D氏は中国語*1がほとんど出来ない。幸いにして私がそこに居た。私はロッカーの管理人と話をし、事情を説明して鍵を開けてもらう。開けてもらってみた所、どうもD氏の荷物はそこにはない。さあここで管理人氏「どうする?警察呼ぶ??」。
 あまり警察沙汰にはしたくはないが、警察へ通報という形となる。管理人氏は我々を駅構内の派出所へ連れていき、そこで調書というか取り調べを受けることになる。警察のお世話になるようなことは普段しない私、やや緊張する。横で意気消沈するD氏。だが、荷物の中に大したものはない。なのであまり実害はない。もちろん、パスポートは身につけている。財布も有る。彼は海外経験豊富でマレーシアでは女の子も引っ掛けた。パスポート、財布があれば特に海外旅行で困ることはないことを知っている。五体満足、パスポート。


 ほどなくして、警察官は管理人氏とDを伴って、預け入れたというロッカーと監視カメラの確認に行ったらしい。私は派出所で控えていた。30分ほどして、D氏は荷物とともに帰ってきた。なんでも、最初に入れたロッカーの鍵がうまく閉められておらず、あとから来た客がそのロッカーから荷物を取り出し、そこいらに放置しておいたのが、別のロッカーへ収容されてしまっていたらしい。とにかく見つかってよかった。我々は、台湾名物ともなっている「事件解決を記念する写真」*2を警官とともに撮影し*3、解放となった。

 海外では、荷物の管理を普段以上にきちんとすべきなのだ。そこはあの安全な日本ではない。一見日本と同じように見えても、面倒事が起これば現地人の仲介や外語での面倒な交渉事が発生していまう。海外では注意深く行動することが必要なのだ。

 

 

 さて、そんなかばんちゃん、もといD氏とふたたび相まみえたのは、なんとドイツ、ジャーマン、ドイッチュラント、ハンブルクだった。その数日前、まず私はパリでM氏と落ち合い*4、ロンドン*5スコットランド・ヨーク・アムステルダムコペンハーゲン弾丸旅へとでかけた。

 

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  どう考えても頭がおかしい旅程である

 

 我々はタフでグローバルな人種であるからして、行動範囲は世界一円に広がっており、ヨーロッパなんて屁の河童だった。怪しい英語を駆使して入管に脅されつつ、二度の鉄道トラブルに遭遇しつつも、無事に当初の集合予定地、ドイツ・ハンブルクへと到着、D氏と落ち合ったのだった。その後、ハンブルクではD氏が夜にホテルでエロチャンネルを発見したぐらいで平穏に過ぎ、その後はスイスバーゼル、フランスストラスブール、ドイツケルン(これは行った順に書いている。頭がオカシイわけではない)と雰囲気の良い街をめぐり、私はこころもち軽くなった財布と豊かになった心を台北へ持って帰った。また来よう、ヨーロッパ。

 

 問題はここからである。最近のヨーロッパはどうもいろいろと大変なようだ。イギリスのEU離脱問題、フランスでは革命前夜(平常運転か)、ヨーロッパ全土で反移民運動。どうもヨーロッパはきな臭い。犯罪への懸念も高まっている。我々もやや警戒しつつ行動していた。とくにハンブルクでD氏はしもた屋で軽く絡まれていた。
 なんとなくヨーロッパに漂う暗さを目の当たりにしつつも、Mも我もそこそこ気分良くヨーロッパを回ったのである。ストラスブールでMと分かれ、ブリュッセルで私は先に帰途へつき、Dは一人で伯母の住むロンドンへと向かった。ロンドン。シャーロック・ホームズが活躍し、ジェレミー・クラークソンが自転車を罵倒する街である。最近はどうも治安が悪く、犯罪率が向上しているらしい。

 

 Dは、欧州超特急ユーロスターを颯爽と降り、セントパンクラスで伯母と落ち合い、ランチを摂った。イギリスは飯のまずい国だと広く知られているが、この日彼が食べたランチの味を、彼が思い出すことはもう無いだろう。
 彼らが食事を終え、席をたとうとした時、Dは異常に気がついた。手回りカバンがない。あの台北の記憶がかすかに彼の脳裏をかすめる。「また海外でカバンとはぐれた」。しかし、不幸なことに、そしてとんでもないことに、パスポート(そして財布や携帯電話やiPadやとにかく高価なものが全て)がそのカバンに入っている。
 ふたたび彼は現地警察のお世話になった。かの有名なスコットランドヤードは、どうも台北の警察ほど優秀ではなかったようだ。その場で見事カバンと感動の再開!という展開にはならず、おそらく置き引きにあったのだろうという結論に落ち着き、なんらかの証明書が発行されるに至った。落ち着こうが何しようが、カバンは永久に失われた。そしてこの時、D氏は、P氏、つまるところPassport氏になったのだった。


 パスポートが無い。一大事である。むべなるかな、ロンドンは當時三連休の渦中に有り、したがって、海外において最も頼りになるべき存在「大使館」(総領事館、領事館、日本台湾交流協会)が空いていない。Pは火曜日を待って大使館へと駆け込み、「帰国のための渡航書」(通称、のびのびパスポート)*6の発行を待つことになったのだった。幸いなことに、ロンドンにはおばさんがおり、おばさんと一家は当然英語が出来た。そして家もあった。パスポートとともに帰国がのびのびになった彼はしばらくロンドンに滞在し、犬の散歩をするなどして生き延びていた。彼は不幸なのか幸運なのかはわからない。Pが2018年に海外で3つの不幸(もう1回は台北で吐いちゃったこと)に遭遇した時、傍らには現地に住む日本人が居て、サポートを受けられた。彼はいままでに作り上げた人徳により命をつなぎ、人徳によりうっかりパスポートを喪失してしまったのだった。

 そして彼は2週間にも及ぶ長い長い休暇を終え、本来であればエールフランスで帰国をするはずが*7、中国のナショナルフラッグキャリア中国国際航空」に乗り、北京を経て無事日本へと帰国した*8
 彼がふたたび幸いであったのは、彼が所持していたクレジットカードには、海外旅行保険が付帯していた。彼は即座に、保険会社と交渉を始め、ほぼほぼ順当な額を保険会社から勝ち取った。彼はまた人徳により損失を避けられたのだった。

 

 クソ長くなってしまったが、本記事の要点である。
 ①、海外旅行中は十分な注意を払うこと。
 ②、パスポートは肌身離さず所持しておくこと。とくにスられないように注意をすること。
 ③、海外旅行保険には何らかの形で加入しておくこと。
 ④、最低限の外国語能力か、現地人とのコミュニケーションスキルを身に着けておくこと。

 以上である。おそらく本記事を最後まで読むのは、当事者であるP氏だけであろうが、もし他にも最後まで読んでくれた読者がいれば、このクソ忙しいときに他人の記事に数千字も費やした私をすこし褒めてもらいたいと思う。

 

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ケルンにて



 
 
 

*1:台湾では台湾語とはべつに、共通語として「中国語」(國語)が用いられる

*2:日本人ネタだとたまに全国紙に掲載されてしまう。そういうことをされる友人もまたいるのである。やんぬるかな

*3:のちほど警察のFBにアップロードされていた

*4:パリで落ち合うなんてなんともオシャンティーだが相手はいつものMであり、いつものちんぶらである

*5:いま思い出したので追記しておくが、ロンドンで私とMはダブルの部屋に通されホテルマンと喧嘩をするはめになった。くたばれロンドン

*6:

日本国内及び海外でパスポートに関する申請手続きに通常必要な書類

渡航書を申請する場合
1:紛失一般旅券等届出書 1通
2:警察署の発行した紛失届出を立証する書類又は消防署等の発行した罹災証明書等
3:写真(縦45ミリメートル×横35ミリメートル) 1葉
4:その他参考となる書類(必要に応じ,本人確認,滞在資格を確認できるもの)
5:渡航書発給申請書 1通
6:戸籍謄本又は抄本(原本を必要とします) 1通 又は日本国籍があることを確認できる書類
7:写真(縦45ミリメートル×横35ミリメートル) 1葉
8:その他帰国日程等が確認できる書類

https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/passport/pass_5.html#03

即日・翌日発行される

*7:これもまた笑い話ではないが、Pが旅行中にAFはストを決行し、おなじアライアンスの中国南方航空へ振り替えていた。なお私もAFに搭乗したが、ストには巻き込まれなかった。むべなるかな。

*8:帰国を待ち構えていた、寿司奢らない人Z(あとから聞いたらこのときばかりはおごったらしい。ロンドンでパスポートを失うと東京で寿司が食える)と最近転職した(おめでとう)Mに出迎えられ、寿司を食ったらしい。さぞ美味かったことだろう